「開店一時間前」



「いらっしゃいませ」


店の扉を開けるとそこにはかっこいいボーイが立っていて、女性をエスコートする。それは夢のひと時へといざなう、案内人。


「という風になるはずなのに!」

「若、仕方ないでしょう。ボーイの手配をするのを忘れていたのですから」


オクラが喚いた横で土師が苦笑しながら言葉を返した。

そうなのだ。ホストはそろってはいるのだが、案内するような人間がいない。
アルバイトを雇っても良いのだが、今日は当日で今から探している暇はない。


「どーすんだよ!俺たちが迎えに行くっていうのもありだけどな」

「それでは、指名制度が意味ないのでは?全員その人物にしてしまったらどうするおつもりですか?若」

「う…じゃあ土師はいい案あんのかよ」

「そうですねぇ…星山さんはどうなんですか?」

「あいつが出てきたらさすがに客が驚く」

「案内ロボットだということにすれば…」

「うーん…というかあいつは女相手にしゃべれる奴じゃねぇ」

「まあ、確かに」


うーんと2人はうなって考える。タイムリミットはあと1時間。それまでにどうにかしてボーイとなる人を探さなければならない。


「ボーイを私に?」


企画書を作成していたためが驚いたように眼を見開いた。オクラと土師が出した結論はホストの中から一名案内役にすることだった。そのため、全員に聞
いて回ることになったのだ。最初に白羽の矢が立ったのがためさんだった。


「そうですねぇ…若がそういうのであれば、いたしかたありませんね」

「お、やってくれんのか?」

「若の頼みとあらば…って!!!」


ための横をスーツを着た帝覇が通った。彼によく会う紺色のスーツを身にまとい、煙草をふかしている。


「帝覇!お兄ちゃんと同じ色だね!!」

「げっ!!」


帝覇とためのスーツの色は紺。形は違うものの色が同じことに感動したためが抱きつこうと帝覇に駆け寄った。


「近寄るなっ!オーナー色どーにかならないのか!?」

「あーおれとかえる?」

「なにを言っているんだ帝覇〜。お兄ちゃんとおそろいだぞ!?」

「だからだ!それに兄じゃないと何度言えばわかるんだ、あんたは!」


ための執念からか、つかまってしまった帝覇は離れろと叫びながらための腕をはずそうと必死になっている。
ためはためでうれしそうにより一層力をこめていた。


「あー…なんかだめっぽいな」

「ですね…きっと弟と一緒にやると言い出しますねこの雰囲気なら。もともと帝覇は無理そうですからねぇ…」


そう2人は考えて違う人物のところにいく。


「俺ですか?」


そう言って自分を指差したのはうなずきんだった。スーツに着替えたためか大人っぽくなっている。


「でもおれ、ヘマしそうですし…」

「大丈夫だ、俺と土師でなんとかフォローはする」

「だけど」

「私はバーテンですからフロア見ることくらいできる」

「まあ…そんなにいうなら…」

「やってくれんのか!」

「俺でよければ。あいにく天夜は今回客寄せだからホストしないみたいだし…。歳の順から行けば俺がやるのも当然かなみたいな」

「・・・・・ちょいまち」


そう言ってオクラは土師をつれてうなずきんに見えないように会話する。


「あいつがいなくなったら、お姉さま相手は誰がする?」

「…その問題をすっかり忘れてましたね」


土師とオクラは顔を見合わせてため息をついた。

―なんでこううまくいかないんだろう

そう心でつぶやきながら。


「若、土師さん、どーしたんですか?ため息をついたらしあわせ逃げちゃいますよ〜。逃げないようにすぐに吸えば大丈夫っていいますけどね」

「…うなずきん、それあんま意味ないからな」

「え、そーなんですか!しらなかったぁ」


そんなうなずきんを残して、土師とオクラは次の人物へと向かう。


「アルノ、お前に」

「いやだ」

「まだ何も言ってねーぞ?」

「ボーイだろ?さっきうなずきんが『ボーイってなんですか』って聞いてきたからなんとなくわかった」


―あいつわかってないでやろうとしてたのか…

オクラと土師はそろって心の中でつぶやいてため息をついた。


「なんで嫌なんだ?」

「あ〜?俺が酒好きなの知ってんだろ。俺は酒飲むためにこの仕事やってんだよ」

「そいつは初耳だな」


土師がそういうとアルノは鼻で笑って、


「別に仕事やる理由を言う必要ねぇし、いいたくないこともあんだろ。あんたみたいに」


と言った。土師はその言葉に片眉をあげてにらみつけた。その睨みを向けられたアルノは肩をすくめて近くにあった書類を手に取った。


「まあなんにしても、やりたくねーよ」

「そこをなんとか…なんて言ってきくようなやつじゃねーからな。ほか行くぞ、土師」

「はい…」


意味深な言葉を吐いたアルノを残してその場を離れた。


「どーするよ」

「どーすると言われましても…」


結局振り出しに戻ってしまった二人はソファに座って考えていた。
全滅してしまったいま、次の案を考えなくてはならない。タイムリミットはあと30分。


「あーもう…こーなりゃ俺が行くか」

「それはだめでしょう」

「だよなー。あーくそ」


オクラはせっかく整えた髪をぐしゃぐしゃとかきむしった。土師は土師で難しそうな顔をしたまま動かない。


「あの…」

「ん?」


後ろから聞こえた声に反応すれば、そこには赤い髪をした女性が立っていた。その女性はボーイの制服を着てにこりと微笑んでいた。


「私がやりましょうか?」

「…あんたは」


オクラはその人物を見て大きく目を見開いた。気がついたことに満足したのか、今までの穏やかな雰囲気からすこしあらっぽい雰囲気へとかわった。

「久しぶりね。あんたもなかなかいい男に育ったようで私もうれしいわ」

「そりゃどーも。なんであんたがココに?」

「あの子に頼まれたのよ。そーじゃなきゃボーイなんてことしたいと思わないわよ」

「話を中断させて申し訳ありませんが、どなたなんですか?若」


話をさくさく進めていく二人の横にいた土師が、質問する。オクラはそうだったというような顔をしてその人物を紹介した。


「この人は、星山だ。あのネクロマンサーである星山と同じ体ではあるんだが、性格も容姿も種族さえも違う」

「どういうことでしょう」

「ネクロマンサーと悪魔を融合させて、地上に出てきた赤い悪魔やネクロマンサーを監視する役なのさ…私はね」

「融合…というと作られたと」

「簡単に言えばそういうことかしら。ネクロマンサーたちも赤い悪魔には困っていたから、私のような悪魔とネクロという生き物が出来上がったのよ」


土師はすこしだけつらそうな顔をしたあとすぐに表情を元にもどした。それを星山が見逃さずにいう。


「別にいいのよ。作られよーがなんだろうが。私は生きてるし、あの子も生きてるわ。それだけで、私とあの子は救われるのよ」

「そうですね。しかし、ボーイは出来ることなら男性にやっていただきたかったんですが…」

「ああ、それなら問題ないわ」

「え?」


星山がすっと姿勢を正して髪を上で結んでいくうちに体がどんどんと変化をし始める。
豊満なバストはいつのまにかなくなり、がっしりとした胸板が現れた。


「ま、まさか」

「そのまさかだよ。こいつは性別がないんだ。だから自分の好きなように男でも女でも成り代われる」

「それは悪魔だからですか?」

「いや、こいつしか持ち合わせてない技だ。調査するためにはどうにかして接触する必要がある。そのためにこのスキルが役に立つんだとさ」

「あの、若…」

「ん?」

「いまさらですが、この方とはどういったご関係で」

「屋敷にいた守り神みたいなもんかな」


そうオクラが言い終えたときにはもう星山の体は男のものへと変わっていた。
ふうと息をついたときも声が先ほどの高いのから低いものへと変化していた。


「これなら文句ねーだろ?」

「ああ。まあそれでも、あんたはきまぐれだからなぁ。どうせ三日くらいしかやらないんだろ?」

「ふ…おまえもぼっちゃんからずいぶんと変わったもんだな。勘のいいこった」


そう言ってオクラの頭をぽんぽんとなでて、オクラの横を通り過ぎた。そして、土師の後ろを通り過ぎるときに土師の耳元でささやいた。


「アンタホドツミブカイセイショクシャモメズラシイナ」


その言葉に土師は後ろをにらみつけた。そこには悪魔の笑みを浮かべた星山が立っていて、土師は視線をそらした。


―こいつの目を見てはいけない


そう心が叫んだのだった。単なる勘だが、それはなぜか正しいように思えた。


「変なこというなよ」

「はいはい、仰せのままにマスター」


そう言って星山は入り口へと歩いていった。オクラが視線を土師へと向けるとそこには青い顔をしている土師がいた。


「気にするな。あいつの気まぐれだ」

「はい…若」


タイムリミットまであと3・・・2・・・1・・・・

さあ時間だ。物語の歯車が動き出す



「いらっしゃいませ、ホストクラブ 若へ」