〜ホストクラブ若〜
「ようこそ、ホストクラブ若へ」
ここは古都ブルネンシュティグにあるとあるお店。俗にいわれるホストクラブである。
若という名のホストクラブは最近出来たばかりのクラブで今日開店だった。
「あーねむ」
まだ朝早いため、店は静かで男は寝ていたソファから降りて顔を洗いに歩き出す。この男はオクラ。通称若。店の名前にもなっているようにオーナーである。オクラは時々ここで寝る。夜遅くまで書類整理に追われオーナーも忙しいものだ。
パシャと音を立てて顔に水を当てる。寝不足に見えていた顔が少しだけ回復する。
「若、ココで寝るのはあまり勧めないといっているでしょう」
そう言って苦笑している男―土師はオクラにタオルを手渡した。それをオクラはすこし笑って受け取った。
土師はオクラよりも年上でいつも優しげに微笑む。このホストクラブ若のメンバーの中ではまとめ役である。オクラのサポート役もしている。
「そういや、ためさんまだ来てねぇのか?」
「さあな…あの男は読めん」
「それは心外ですね。土師」
2人が声の下方向へと顔を向けるとそこには長髪をなびかせた男が笑って立っていた。
この人物は貴方のためにという名の男だ。通称ためやためさんと呼ばれている。この男は元々オクラの執事だったため、動きに無駄がなく、しゃべり方も執事のようだ。
土師は少しだけむっとしたように顔をゆがめる。
「本当のことを言っただけだろう。若、コーヒーを持ってきましょう」
「ああ、頼んだ」
「まあ、否定はしないけれどね。それより、ほかのメンバーも呼んであるんでしょう?若」
「もちろん。少々休みすぎたからな。今日から始動する」
「それは、それは…私も楽しみにしております」
まるで執事がするかのようにためはお辞儀をして、体を起こしたてまた柔らかな笑みを浮かべた。オクラその仰々しい態度に肩をすくめて、首を振る。
オクラが言っていた、少々休みすぎたというのはこのホストクラブはついこの間まで休業していた。休業といってもこのように店を構えていたわけではなく、無店舗でホストをしていた。女性をもてなしたり、彼氏のように女性に尽くすなどのサービスを提供する会社をしており、それで儲けたお金でこの店を構えたのだ。従業員は全部で8人。これから大きくなれば増えていくだろう。
「若〜」
可愛げな声がして、ためがどくとその声の主がオクラに飛びついた。
「久々だな、天夜」
「ホントだよ。僕退屈で死にそうだった」
天夜と呼ばれた少年のようなこの人物は、メンバーの中では一番若い。とても人懐こくてホストをさせればお姉さまに可愛がられる。
「これからは、退屈することはないだろう。ためさん、土師にコーヒー追加してきてくれ」
「かしこまりました」
「僕コーヒーより紅茶がいいな〜」
「わかりました。入れてきますね」
そう言ってためが奥の部屋へと消えていくと同時に店の入り口が開いてまだきていなかったメンバー2人が入ってくる。
「ちーっす。オクラげんきだったかぁ」
「若、こんにちは」
「おー。アルノとうなずきん、久々だな。ちなみに、うなずきんいまは朝だからおはようだろうが」
「あ…」
「お前そういう馬鹿なところ変わってねぇなぁ」
そう言ってアルノが横で爆笑するとうなずきんは、ばつの悪そうな顔をしてうつむいた。だがすぐに顔を上げて、
「おはようございます!」
とオクラに頭を下げた。そのことにもアルノは爆笑して近くにあるテーブルをバシバシ叩いていた。
「おお、おはよう。アルノもそろそろ笑うのやめとけ。かわいそーだろうが」
「ムリ」
「ムリって笑顔でいってんじゃねーっつの。うなずきんと天夜はテキトーにその辺に座っとけ。アルノは書類もってくるの手伝え」
「あ〜?めんどくせぇなぁ。そんな多くもねぇだろうが」
「お前のその筋力をいま使わないでどこで使うんだ?ほらいくぞ」
「…へーへー」
そう言ってオクラとアルノは二階にある事務所へと消えていった。
「はっ。お前あいかわらず馬鹿なんだなぁ」
「…お前もあいかわらずセンパイへの言葉遣いまちがってる」
急に雰囲気を変えた天夜がうなずきんに近寄りながら声をかけた。天夜は二重人格でかわいいように見えて実際は腹黒い。こういう部分をみせるのは、歳の近いうなずきんだけだ。
うなずきんのほうが年上なのだが、彼は天夜に完全に迫力で負けている。
「あんたをセンパイだとはおもってねぇーし」
「ひどいなぁ…」
「センパイだと思われたいんだったらその馬鹿な性格なおすんだな」
「…馬鹿馬鹿って」
「ああ…うなぎ馬鹿っていたほうがよかった?」
にたりと笑うその顔は小悪魔だ。顔が幼い分悪魔とは言いにくい。だが、その言葉は悪魔と言っても過言ではないかもしれない。
「あーそうさ!おれはうなぎ馬鹿だよ!でもな、後輩のお前にそういわれる筋合いはない!」
「そんな大声で言わなくても聞こえてるっての」
「大声が俺のとりえなんでね」
「とりえはうなぎの養殖だろう?」
「それもあるけどな。馬鹿にすんなよ、このひよっこ!」
「なにをー!?僕を愚弄するとはいい度胸だね!」
取っ組み合いのけんかになりそうでも取っ組み合いの組合はしない。だって、顔が命のホスト。傷が付いたら、商売にならないからだ。今日開店なのに、傷がついたらオクラがキレることは目に見えている。
「あーあ。またはじまっちゃったみたいですねぇ。土師」
「あの2人は歳が近いからな…致し方なかろう。しばらくすればおさまる」
「しかし、コーヒーと紅茶が冷めてしまいますよ」
「いまココで飲んでりゃもんだいないんじゃねーの?」
「おや、アルノさんいついらっしゃったんですか?」
書類をもって現れたアルノにためが声をかける。書類は片手だけで持てる量だったのでアルノは空いている手でコーヒーを取って飲んだ。
「うなずきんと一緒にきたんだよ。たく、あいつらまたけんかかよ。あきねぇなぁ」
「けんかするほど仲がいいってものですよ。アルノさん」
そう言ってアルノにためが笑いかけると嫌そうにアルノは顔をゆがめた。そして無視をすることにしたのか土師とためのよこを通って喧嘩している2人に気づかれないようにテーブルの上に書類を置いた。
「やれやれ…、変態というレッテルをはずしてはくれないんですかねぇ」
「…ムリだろうな」
そういって2人もアルノが書類を置いた机の上に紅茶とコーヒーを置いた。喧嘩していた2人はようやくそこで気がついて、おとなしくテーブルを囲んでいるソファに座った。
「おーみんな集まってんな・・・ってあと一人たりねえな」
「俺か?」
オクラの言葉にそう返したのはためと同じく長身の男だった。彼の名は帝覇。
「おー、おせぇよ。時間厳守だろーが」
「いや、ちょうどだ。時計見てみろ」
「…ジャストじゃなく余裕もって行動しろって学校で習っただろ」
「さあな…忘れた」
そう肩をすくめて、彼はソファに座った。長い足を組んで、煙草を吸い始める。彼は一匹狼のような人間で、ヘビースモーカー。ほかのメンバーも異様な空気をまとっているが、彼が一番すごく異様な雰囲気を持っているといえる。
「兄さんに会いたくなかったのか?帝覇」
「だーれが兄さんだ。お前みたいな兄さん持った覚えない」
「そういうな…って煙草そろそろやめたほうがいい。な、帝覇」
そういってためが笑いかけたが、帝覇は寒気を感じたらしく腕を組んで寒そうにした。
その様子を見ていたほかのメンバーはお気の毒にと帝覇をみつめた。オクラはごほんと咳払いをして、話を戻した。
「今度こそそろったな」
オクラは、皆が席についているのを確認してそういった。その言葉にためが驚いたように口を開く。
「若、まだ星山さんがいらっしゃってませんが?」
そのセリフにオクラは小さく笑って、自分の後ろを指差した。そこにはなんとも風変わり…いや、人間ではないものがいた。顔と思われる部分は闇のように黒く、眼があるのがわかるだけだった。星山は謎のことが多く、どういった生き物なのかわからない。
「いるだろ?これで全員だ」
「気づかず失礼いたしました、星山さん」
そう言ってためは先ほど同様丁寧にお辞儀した。そのお辞儀に驚いたように星山もお辞儀を返した。
星山のぴょこぴょことしたしぐさはなんとも可愛かった。
「さて、これからこの店のことを話す心してきけよ。俺たちは女性のもてなしかたはわかっている。だが、それがホストクラブになるとやりかたも変わっ
てくるのでその辺は臨機応変に対応していけ。それと、役目を割り振っておく。俺はオーナー、ためさんとうなずきんは企画、土師は会計、アルノと帝覇は用心棒、天夜は客寄せだ」
「客寄せぇ?」
「表に出てやるものだ。ほかのメンバーもやってもらうが、お前中心でやってもらおうと考えている」
「わかりました〜」
「ほかのメンバーで質問は…なんだ?星山」
「あの…僕の役割は?」
星山は後ろから覗くようにオクラに尋ねた。オクラはちいさく笑って、星山の頭をなでた。
「お前は、マスコットだ。そのひょこひょこした動きをしてりゃいい。できるな?」
星山はうれしそうに頷いた。眼と思われるものがすこし笑ったように細められている。
「さて、ほかのやつらで質問は…ないな。次に行く。資料を見てくれ」
質問をしようと手を上げたものもいたが、それをスルーしてオクラはアルノに資料を配るように目で指示した。全員にいきわたったのを見てオクラがまた話始める。
「全員のキャッチコピーだ。覚えておけよ」
「…全員分覚えるべきなのか?」
土師が問いかければ、オクラは横に首をふった。
「いや、自分の分を覚えてくれればいい。だが、全部覚えてればなおいいだろう」
「承知した」
「なにか異議があるものはいつでも言って来い。さて、次は値段等の話だが」
そのあとはつらつらと店のことや心得なんかを言って今回の会議は終わった。
「今日からホストクラブ若が始動する…みな心してかかれ」
その言葉に大きくうなずき、それにオクラがにやりと笑った。このホストクラブはほかのホストクラブとは違う。そういう雰囲気が店に漂っていた。
「帝覇」
「ん?」
「にいちゃんと一緒のスーツにするか?」
「絶対いやだ。それに兄じゃないといってんだろーが」
「何恥ずかしがってるんだ」
「ちがうちがう!あんた人の話きけって!」
慌てて突っ込むがこうなったためを止める術はない。いつもの執事っぽい彼は時折変態へと変貌する。
「ためさんに好かれて大変だなぁ…なあ土師」
「ですね。私はいつも帝覇がかわいそうでなりませんよ」
そう言って二人は帝覇を助けずに、更衣室に行く。
―がんばれ、帝覇
そう心でつぶやいて。
「いらっしゃいませ、ホストクラブ若が最高のおもてなしをいたします」
さあ始まった。ここからが、お楽しみのはじまりだ。