クリスマス…聖なる夜のある物語
「あー、なんでこんな日まで仕事かねぇ…」
今日はクリスマス、しかし、ホストクラブ若は今日も営業である。
店への道を歩きながらアルノはそうつぶやく。
「あーさみー。今日はめいっぱい飲んでやる…」
吐き出す息が白くなるほど寒いのだが、古都の中心のクリスマスツリーの前は恋人でにぎわっておりそこだけ温かな雰囲気が漂っている。
早足で通り過ぎようとしたがふと知った人物をツリーの前に発見する。
その人物は、黒いコートを身にまとったウィザード…
「ん・・・ためさん、こんなところで何してんだ?」
そう、ホストクラブで働く自称執事のためであった。
「おや、アルノさんそんなに急いでどこに行くんですか?」
「どこって、店にいくんだよ。ためさんこそ、何してんだ?店用のスーツじゃないようだし」
ための、黒いコートの下はスーツのようだが店に出るときのスーツではなく、正装っと言った感じだ。
「私は、これからディナーです。それより、店にいってどうするんですか?」
今日はお店は休みですから、若はいませんよ?と付け加える。
「はぁ!店休みなのか!!」
「えぇ、今日はクリスマスですし店は休みにすると若が言い出しまして、私も急遽ディナーと言うわけです。」
「あぁ、そうだったのか・・・若の言い出しそうなことだな。」
「そうなんです、まったく困ったものですよ。いきなりですからねぇ。しかし、私としてはディナーにいけるので嬉しい限りですが」
ふふふ、と笑いながらそう答える。
「しかし、今日が休みだと聞かなかったのですか?天夜に頼んだんですが」
「あぁ、天夜が来てクリスマスも営業だと言ったんだよ・・・まったく天夜め・・・」
「おやおや、私がちゃんと伝えるべきでしたね、すみませんねアルノさん。」
「かまわねぇよ。ここで気付いてよかったぜ。天夜にはなにかおごらせるとするかな。それじゃ、俺は酒場で酒でも飲んでくるよ」
ためさんに、じゃあなと告げて酒場の方へ歩き出す。
たぶん、ためさんは彼女とディナーだろう。ここにいたら邪魔になっちまうしな。
酒場のドアを開けるとにぎやかな声と酒の臭いが漂ってきた。
カウンターに座りマスターに酒を頼む。
「今日はとくに繁盛してるな、マスター」
酒を持ってきたマスターにそう言うと、今日はクリスマスですしねと言い戻っていった。
クリスマスということもあり酒場は大賑わいである。
1人で飲んでいるとカランと音を立てて酒場のドアが開き女性が入ってきた。
そして、高いヒールをはいて入るためかカツカツと音を立てて歩いてアルノの横までくる。
「お隣いいかしら?おにーさん」
にっこりと笑いアルノに話しかける。
「あぁ、どうぞ。だけど席なら他にもあいてるぜ?」
賑わっているといっても席がないわけではない。
「おにーさんの隣がいいわ」
アルノの隣に腰を下ろし、マスターにカクテルを注文する。
「おにーさんはやめてくれ。そんなに年かわらないと思うぜ?」
「そうかしら?でもあなたの名前を知らないわ」
最後にわざとらしくおにーさんと付け加え、笑う。
「俺は、アルノ。ホストクラブ若のホストだよ。」
グラスに残った酒を一気に飲みほし、マスターに同じ物をもういっぱい注文する。
「アルノさんね、よろしく。それにしても、ホストさんがこんな日に1人でいていいのかしら」
お店に来る子とか彼女さんとかと一緒じゃないのねと言う。
「あぁ、同僚にだまされてな、今日も仕事だと思っていたら休みだと。だから1人で飲んでいたとこだよ」
「あら、それで1人で飲んでいたのね。」
出てきたカクテルを一口飲み、美味しいとつぶやく。
「あんたこそ、なんで俺の隣に?こんなに綺麗な人がこんな日に1人とは驚きだ」
「あら、お上手ね。こんな日に、彼に振られちゃったの、それでやけ酒」
本当はクリスマスツリーを見に行くつもりだったのよ、と寂しそうに笑う。
「でも、1人で飲むのがなんだか嫌で、ここに来たらおにーさん…じゃなかったアルノさんが1人だったから隣に。
勝手に同じなんじゃないかと思って話しかけたの、ごめんなさい」
お酒が回ってきたのか、あははと笑う。
「そりゃぁ、災難だったな。まぁ、俺も同じようなもんだよ。彼女はいねーしな。」
彼女の方を見ると、綺麗な赤い髪が綺麗にブローされている。顔は整っていて、赤い瞳が魅力的だ。
・・・とよく考えればこの状況…見つめあってる…
急いで前を見ると
「あはは、おにーさん本当にホストさん?今の状況だったら口説かなきゃ〜」
お酒のせいか、おにーさんに戻っている。
(なに目をそらしてんだ…)
「いや、なんとなくな・・・」
「本当にホストなのー、ほら、口説いてごらんなさいよ〜」
「そんなに言われたんじゃ、俺のプライドが傷つくな…」
もう7杯目である酒をぐいっと飲み干し
「じゃあ、お嬢さんをこれから素敵なデートにエスコートしてあげましょう。」
彼女の手を取り立ち上がる。
「え…」
いきなりの行動にとまどう。
「マスター、お代ここにおいとくぜー」
彼女の手を引き店を出る。
「ちょっちょっと、どこにいくの?」
「どこって、そりゃークリスマスツリーを見に行くに決まってるじゃん」
外は雪が降り始め、あたりがうっすらと白くなっている。
「なんで、そんなことしてくれるの!」
彼にむけてそう言う。
「あんなこと言われちゃ、俺の名がすたっちまうぜ」
笑いながら、そう返す。
彼女が転ばないように上手く手を引くあたりやっぱりホストなんだと思わせられる。
酒場からツリーまではほんのちょっとの距離。そこを手を引き歩く。
はた見れば、道行くカップルとなんら変わりはないだろう。
「今夜は、最高の夜にしてやるよ」
あんたのことなんだか気に入ったしな。
ついでに俺の物になっちゃえよ、
とツリーの前でアルノが彼女に告白するまであと10歩。
彼女がうなずくまで5歩。
クリスマス。聖なる夜の一つの物語。